カノンに包まれて
重なるときは重なるもの。
ここ数日、空を眺める機会が多かった。
青く晴れ渡った空。
淡い光に包まれ、カノンの音色が聞こえてきそうな春の兆し。
会社の簡易PCR検査で陽性反応がでた翌朝、母から電話があった。
「おはよう。どうした?何かあった?」
「あったから電話したんだよ。お父さんがね、亡くなったの」
入浴中に眠るように亡くなったという。
寒い寒いと言って、一日に何度も入浴していた父。
警察や医者が来て大変だったらしい。
わたしは泣くかと思ったけれど、
「そうか。旅立ったのか…」
と思っただけで、悲しくはなかった。
これでようやく母は解放される。おそらく父も。
うちの両親は仲が悪くて、いつ別れてもおかしくなかった。
むしろ早く別れてしまえばいいと、けしかけたこともあった。
だけどお互いとても我慢強く、
特に母は経済力がないことを理由に踏みとどまってきた。
わたしはそんな二人の様子をみたくなくて、
家に寄りつかなくなった。
父の顔をもう何年もみていない。
結局、最期まで顔をみることができなかった。
娘のわたしには優しい…というか、甘い人だったけれど、
母にも同じように接してほしかった。
子供の母親であり、
人生を共に歩んできた人なのだから。
わたしはとても未熟で薄情な娘だった。
これからは神様にたくさんお願いをして、
父が光の道を歩めるように祈り続けます。